Wizcorpのミッションは、ゲーム開発に魔法を取り戻すことであり、そのためには労働環境を改善することが不可欠です。
前回、残業についてお話しました。残業は企業にとって目に見えないヒューマンコストです。
残業は日本に限ったことではなく、ゲーム業界では世界的に蔓延している問題です。一方、給与の低さは、日本ではより深刻な問題であり、非常に根深いものです。
CEDECのプレゼンテーションでも説明しましたが、ゲーム開発者の給料が低いことがもたらす影響は計り知れません。
毎年、かなりの数の優秀なクリエイターがゲーム業界を去っていきます。その理由は、自分の好きな仕事をするか、自分のスキルや経験に見合った適切な給与を受け取って家族を養うか、という選択を迫られるからです。
ゲーム業界は、年間数千億円もの収益をもたらし、着実に成長しています。
私たちは、社員にもっと給料を払う余裕があるはずです。
では、なぜそれができないのか?
課題
私は、この業界の構造的な複雑さを一言でまとめられると考えるほど甘くはありません。しかし、いくつかの症状は明確に特定することができると思います。
明確な相場がない
私の知識不足かもしれませんが、ゲーム業界では、職種、専門性、経験年数ごとの相場(給与)の基準らしきものを見たことがないように思います。
それほど重要ではないと思われるかもしれませんが、基準がなければ、給与は非常に恣意的に定義され、しばしば伝聞や過去の個人的な経験に基づいて決定されます。企業が従業員にいくら支払うべきか(少なくとも相場と同程度になるように)わからないだけでなく、従業員自身も何を期待すべきかわからないため、給与交渉がさらに難しくなっています(待てよ、日本で給与交渉をするの??)。
さらに、プロジェクトの予算は、相場の現実を反映していない陳腐化したコストに基づいており、資金が不足することが多く、下請け会社がなかなか料金を上げることが難しくなっています。予算を立てる時に、20年前からずっと同じ人月単価を使っているパブリッシャー(名前は伏せます)も、個人的に知っています。
入社時の能力レベルが低い
これもCEDECのプレゼンテーションで触れましたが、日本では正式なトレーニングプログラムがないため、新卒で入社したときの能力レベルが非常に低いことが多いのです。
これは私たちの業界に限ったことではありませんが、トレーニングプログラムが充実している会社をあまり見たことがありません。ほとんどの新入社員たちは、仕事中や(非常に限られた)余暇の時間に学ばなければなりません。
その結果、企業にとってはコスト増となります。
新入社員は、入社前に正式なトレーニングを受けていた場合に比べて、プロジェクトへの貢献度が低くなる
後輩たちができない仕事を自分の仕事に重ねて行わないといけないため、先輩たちが後輩たちに教える時間が作れない
多くのプロジェクトはその先輩たちに依存しており、辞められると進行不能になってしまいます。
ゲーム作りのロマン
昔ほどではないかもしれませんが、私は多くの企業が「ゲーム作りのロマン」と呼ぶものを育んでいると考えています。
簡単に言えば、ゲーム制作は単なる仕事ではなく、天職であり、お金のために参加するべきではないということです。10時から7時まで魂を削るようなデスクワークをせずに、自分の好きなことをしていて(貧しくても)生活ができているのは幸運なことだと感謝するべきだという。
30年前はそうだったかもしれませんが、現在のゲーム業界は、きちんとした給料を支払い、成長の機会を提供できるほど裕福になっていることは、誰もが認めるところでしょう。
改善策
ここで述べることは、至極当たり前のことだと受け止められるでしょう。しかし、時には当たり前のことを言わなければならないこともあります。
企業は利益を上げなければなりませんから、ゲームにどれだけお金をかけられるかは、そのゲームからどれだけの収益が見込めるかに直結します。
コストには大きく分けて2種類あります。
制作コスト(オーバーヘッド含む)
広告コスト
効率性の向上
ハードウェアの生産に携わっていない限り、制作コストの大部分は給料です。給料を上げるためには、企業はできるだけ効率的に仕事をする必要があります。
効率(生産性)とは、アウトプット ÷ 時間で定義され、言い換えれば、一定の時間内にどれだけの価値を生み出せるかということです。
全体的に、能力不足、ツール不足、計画不足のために、プロジェクトに多くの時間が費やされています。プロジェクトに費やす時間が長ければ長いほど、払える時給が減ることになります。
ここで言及しておきたいのは、時給は実際の給料を示す唯一の指標であるということです。月給が40万円で、40時間のみなし残業が含まれていた場合、時給は40万円 ÷ (160+40)=2000円となります。
つまり、給料が10%上がったとしても、みなし残業で労働時間も10%増えているのであれば、実質的な給料は変わらないということになります。
企業が人の時間を安価な商品と見なしてしまう限り、給与は改善されません。
効率を上げるには?
より良いツール
より良い計画とプロセス
より多くの専門知識 (<= 一番重要!)
これらは、制作に携わる企業が最も重視すべきことです。
マーケティングの削減
マーケティングにかけるお金は、制作にかけられないお金です。理想は、すべてのお金を制作に費やし、最高の製品を開発することに専念できることです。
もちろん、製品の市場での認知度を高め、無限にあるコンテンツに圧倒されているプレイヤーの目を引くためには、必ず何らかのプロモーションが必要だということは重々承知しています。
しかし、制作面での課題があるため、より多くのマーケティング費用が必要になることがよくあります。
マーケティング費用は以下の方法で削減できるはずです。
ちゃんとした戦略: 明確な製品ビジョン、適切なリスク評価、市場分析
ちゃんとした管理: 市場機会の損失を補うためにマーケティング予算を費やす必要がないように、ゲームを予定通りにリリースできること。
ちゃんとした品質: 創造的にも機能的にも質の高い製品は、単純によく売れる。
当たり前のことを言いますが、戦略、管理、制作の各分野で高い能力を持つことが、マーケティング費用を削減し、制作費用を増やすことにつながり、好循環を生むのです。
制作に回せるお金が増える → 高い給料が払える → 専門知識や能力を高めるインセンティブが働く → より良い製品を開発できる → マーケティングが少なくて済む
転職率の上昇(ゲーム業界内)
残念なことに、転職率は、企業が競争力を維持するために給与を上げ、経験豊富なスタッフを失わないようにするための一番のプレッシャーです。
ほとんどの人にとって、転職は自分のキャリアを見直し、給料アップの交渉をするチャンスです。
人の入れ替わりが業界内にとどまれれば、転職率がある程度上昇するというのは、業界が良い健康状態である証拠です。
まとめ
この業界が繁栄し続けるためには、給与が長期的に改善して行く必要がある。
能力向上と有意義な経験を重視したキャリア開発を優先する必要がある。
効率化と継続的な改善が価値向上の鍵
マーケティングより、制作にお金をかけていきましょう!
最終的には、給料を改善することは、会社のすべてのレベルで理解され、共有されるべき優先事項です。
良い製品を開発するためには、有能な人材が必要です。能力には対価があります。
Wizcorpでは
Wizcorpでは、長期的に給料を改善していくことは、私たちのコアバリューの一つであり、日々積極的に取り組んでいる課題でもあります。
ゲーム受託開発スタジオとして、私たちのビジネスは非常にシンプルです。
比較的安全なビジネスであることの裏返しとして、私たちは自社ゲームを販売していないため、収入源を増やす方法があまりありません。
より良い給料を払うためには、より高い専門性、効率性、円滑な管理、そして全体的な安心感など、お客様に提供する価値を高めなければなりません。
お客様に提供できる価値を高め、請求できる単価を上げ、従業員に払う給料を上げて行く。
日々の努力はそのためにもあります。
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